北海道北部地域を対象としたオジロワシの営巣適地推定(論文紹介)

概要

本論文は、北海道北部地域におけるオジロワシ(Haliaeetus albicilla)の繁殖適地を推定するために、Maxentモデルを用いた研究です。風力発電の立地がオジロワシの生息に悪影響を与える可能性があるため、営巣適地を特定し、風力発電施設の設置に伴う影響を予防するためのセンシティビティマップ作成に向けた基礎資料とすることが目的です。結果として、森林面積や水域面積など、複数の環境要因がオジロワシの営巣適地に強く関係していることが示されました。

 

背景

再生可能エネルギーの一環として風力発電が急速に普及している一方で、鳥類、特に大型の猛禽類に対する影響が懸念されています。オジロワシは、日本国内において風力発電施設との衝突事故が増加しており、個体数の減少が危惧されています。特に、風車に衝突したり、生息地を放棄したりすることで、繁殖成績や個体群の維持に悪影響を及ぼす可能性が高いことが知られています。本研究では、これらの影響を回避するために、オジロワシの営巣適地を予測することが重要視されています。

 

目的

本研究の目的は、北海道北部におけるオジロワシの営巣適地を特定し、風力発電施設の適切な立地選定を支援するセンシティビティマップ作成に貢献することです。具体的には、既存の営巣木データを基にMaxentモデルを構築し、地域全体における潜在的な営巣適地を推定します。

調査対象地

 

手法

調査地域の選定とデータ収集

調査地域は北海道北部(宗谷総合振興局、上川、留萌総合振興局)で、自然景観が比較的豊かであり、オジロワシの営巣が確認されています。研究対象として、2016年から2018年にかけて現地調査を行い、計55つがいのオジロワシの営巣木を確認しました。

 

Maxentモデルの構築

Maxent(Maximum Entropy)モデルを用いて、オジロワシの営巣適地を推定しました。モデルでは、森林面積、水域面積、林縁密度、標高などの環境指標を使用し、営巣木の存在する環境条件を基に潜在的な営巣適地を予測しました。また、モデルの予測精度は、訓練データと検証データを用いて評価しました。

 

空間スケールの選定

環境指標ごとに、どの空間スケールが最も適しているかを特定し、予測精度を向上させるために最適な空間スケールを選びました。環境指標は、土地被覆と地形に関する6つの指標を使用し、複数のスケールで集計されました。

 

結果

営巣適地の分布

北海道北部地域において、特に森林面積と水域面積が多い地域がオジロワシの営巣に適していると推定されました。モデルの結果、営巣木周辺の環境要因として、2.0 km四方の森林面積と3.0 km四方の林縁密度が重要であり、標高が低く、適度な森林と水域が存在する場所が営巣適地として特定されました。

オジロワシの営巣地モデルに対する各変数の寄与率

 

推定されたオジロワシの営巣適地指数

 

予測精度の評価

モデルの評価指標としてAUC(Area Under the Curve)を使用し、訓練データセットと検証データセットに対するAUCはそれぞれ0.816と0.783で、モデルは高い予測精度を示しました。さらに、Continuous Boyce Index(CBI)を用いても予測精度が高いことが確認されました。

 

考察

オジロワシは、複数の空間スケールにわたる環境要因に基づいて営巣地を選択していることが示されました。特に、行動圏スケールでの森林と水域の存在が重要であり、適度に複雑な景観が営巣適地となることが確認されました。また、営巣木周辺には一定面積の森林や水域が必要ですが、単一の土地被覆が支配的な場所よりも、森林と水域が交錯する環境が好まれる傾向がありました。

 

さらに、風力発電施設がオジロワシの営巣適地に与える影響を回避するためには、営巣木や繁殖地に近い場所を避けた立地選定が重要です。オジロワシの繁殖成功率を高めるためには、繁殖期の親鳥が頻繁に飛翔する地域に風力発電施設を設置することを避けるべきです。

 

結論

本研究は、北海道北部地域におけるオジロワシの営巣適地を推定し、風力発電施設の立地選定に貢献するセンシティビティマップ作成の基礎となるデータを提供しました。森林面積、水域面積、標高といった環境要因がオジロワシの営巣適地に大きく影響を与えていることが確認され、今後の風力発電施設の設置にあたり、これらの適地を避けることが推奨されます。

 

また、オジロワシの生息環境をより高精度で保全するためには、非繁殖期や越冬期の生息データの収集や解析手法のさらなる改善が必要です。

 

出典元

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/28/2/28_2012/_pdf/-char/ja

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