概要
この論文は、環境DNA(eDNA)分析とUAV(無人航空機)を組み合わせた手法を開発し、河川の沈水植物の生物量を正確に定量化することを目的としています。対象は、一級河川である江の川の土師ダム下流域で、外来種であるオオカナダモとコカナダモ、および在来種のクロモに焦点を当てています。結果として、UAVと環境DNAを併用することで、従来の手法よりも効率的かつ正確に沈水植物の生物量を推定できることが示されました。
背景
外来沈水植物は、水域生態系や人間活動に多大な負の影響を与えています。具体的には、河川景観の悪化や水利施設の詰まり、在来植物との競合などが問題視されています。このため、外来種の繁茂を抑制し、在来種の保全を行うことが重要です。しかし、流域全体での沈水植物のモニタリングは、従来の方法では時間と労力を要するため、より効率的な手法が求められています。
近年、環境DNA分析が生物モニタリングの新しい技術として注目されています。水中に存在するDNAを分析することで、生物の存在や生物量を推定するこの技術は、特に河川や湖沼での調査に適しており、外来種のモニタリングにも応用されています。また、UAVを使った空撮によるモニタリングは、広範囲の植物被度を効率的に把握するための手法として確立されつつあります。本研究では、これらの技術を組み合わせることで、より正確な生物量の定量を目指しています。
目的
本研究の主な目的は、環境DNA分析とUAVを併用して、河川に生育する沈水植物の生物量を正確に定量する手法を開発することです。具体的には、オオカナダモ、コカナダモ(外来種)、クロモ(在来種)の群落面積をUAVで推定し、それに基づいて各種の環境DNA濃度と群落面積の関係を明らかにすることが目的です。
対象の沈水植物
手法
現地調査
江の川土師ダム下流約40 kmに10の調査区間を設け、月に1度、環境DNAサンプルの採取とUAVによる空撮を行いました。各区間では、左岸・中央・右岸の3地点から水サンプルを採取し、DNA分析のためのフィルター処理を行いました。
調査地点図
環境DNA分析
採取した水サンプルからDNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いてオオカナダモ、コカナダモ、クロモのDNA濃度を測定しました。また、各種の環境DNA濃度とトランセクト調査による植物被度との相関関係を分析しました。
UAV空撮
UAVによる空撮画像を基に、河道内の沈水植物の群落面積をGISソフトウェアで定量化しました。空撮データはSfM-MVS(Structure from Motion-Multi View Stereo)を使用してオルソ画像を作成し、それを基に各調査区間の沈水植物の群落面積を算出しました。
統計解析
環境DNA濃度とUAVによる群落面積、踏査による被度の関係性を相関解析により分析しました。
結果
環境DNA分析の結果
オオカナダモとコカナダモの環境DNA濃度は、下流域に向かうほど低下する傾向が見られ、環境DNA濃度が植物群落の分布を反映していることが確認されました。一方、クロモの環境DNA濃度は、他の種とは異なる分布パターンを示しました。
UAVによる結果
UAVで得られたデータに基づき、上流域では沈水植物の生物量が多く、下流域に行くほど減少していることが確認されました。特に、下流域ではUAVによる画像からは沈水植物がほとんど確認できない地域がありましたが、これは植物群落の規模が小さすぎて空撮では検出できなかった可能性があります。
環境DNAとUAVの併用
環境DNAとUAVを併用した解析では、環境DNA濃度と群落面積の相関がより強く、実際の生物量をより正確に反映していることが示されました。特に、オオカナダモとコカナダモについては、UAVと環境DNAのデータが高い整合性を示しました。
考察
環境DNAとUAVを併用することで、従来の踏査手法よりも効率的かつ正確に河川の沈水植物の生物量を推定できることが明らかになりました。UAVによる空撮では広範囲の沈水植物群落の把握が容易になり、環境DNA分析では、より詳細な植物種ごとの生物量の推定が可能となりました。この組み合わせは、特に流域全体のモニタリングや外来種の管理に有効です。
結論
本研究では、環境DNA分析とUAVを組み合わせることで、複数種の沈水植物の生物量を効率的かつ正確に定量する手法を開発しました。この手法は、外来種の管理や在来種の保全に向けた優先区間の設定に役立ちます。今後は、この手法が他の河川や異なる環境条件でも適用可能かを検討する必要があります。
出典元
https://www.jstage.jst.go.jp/article/river/30/0/30_35/_pdf/-char/ja