キャベツほ場の生育を株単位で把握するためのドローン空撮方法と画像解析手法(論文紹介)

概要

この研究は、キャベツの生育状況を個々の株単位で把握するために、ドローンを用いた空撮技術と画像解析手法を開発することを目的としています。具体的には、キャベツの収穫効率を向上させるため、空撮画像を解析し、キャベツの成長状態や生育が遅れている株(生育遅延株)の場所を特定する技術を検討しました。これにより、キャベツ収穫作業の省力化と出荷量の安定化が期待されています。

 

背景

キャベツの生産においては、収穫作業が手作業で行われることが多く、これが生産全体の大半の労働時間を占めています。収穫機を導入することで省力化が進められているものの、手作業とは異なり、収穫機では個別の株の成長具合を見極めて収穫することができません。そのため、収穫時に生育が不十分な株も一緒に収穫されてしまい、出荷量の減少という課題が生じます。この問題を解決するためには、キャベツのほ場における成長状態をリアルタイムで把握し、生育が揃った時点で収穫を行うことが求められています。

 

目的

この研究の目的は、ドローンによる空撮と画像解析技術を活用し、キャベツの生育状況を個別の株単位で把握する技術を確立することです。特に、収穫作業の効率化を目指し、生育遅延株の場所を特定することで、適切な対処を可能にし、生産性の向上を図ります。また、空撮データからキャベツの成長指標(例えば、水平投影面積や植生指数)を解析し、収穫適期の判断材料とすることも目指しています。

 

手法

まず、ドローンを使用してキャベツほ場の空撮を行い、得られた画像を解析しました。使用されたドローンはInspire1で、搭載カメラにはZenmuseX3とYubaflexが使用され、可視光画像とマルチスペクトル画像を同時に取得しました。解析には、SfM-MVS(Structure from Motion-Multi View Stereo)技術を使用してオルソモザイク画像を作成し、QGISソフトウェアで画像解析を実施しました。教師付き分類によってキャベツの水平投影面積や植生指数(NDVI、NGRDI)を算出し、これを元に生育状況を評価しました。

 

また、異なる飛行高度(20m、30m、50m)で撮影を行い、株抽出率や撮影精度の違いを比較しました。さらに、成長指標として収穫時の球重と相関の高い生育期の指標を探るため、定植後の15日、20日、50日といったタイミングで撮影を行い、それぞれの時期の生育指標との関係性を分析しました。

 

結果

解析の結果、20mおよび30mの高度で撮影した場合にキャベツの株抽出率が最も高く、これらの高度が適切であることが確認されました。飛行高度50mでは、抽出率が低下し、特に生育遅延株の抽出が難しいことが判明しました。また、水平投影面積と収穫時の球重には強い正の相関があり、特に定植後15日目の段階で測定された水平投影面積が、収穫時の球重を予測するための有効な指標であることがわかりました。

 

考察

高度20mおよび30mで撮影した画像からは、キャベツの生育状況が高精度で把握できました。特に、20mの高度ではキャベツの葉がドローンのダウンウォッシュ(下向きの風)によって揺れることはなく、安定した撮影が可能でした。一方で、50mの高度では解像度が不足し、キャベツの個別株を正確に抽出することが困難でした。このため、30mの高度が作業効率と解析精度のバランスが取れた最適な飛行高度であると結論付けられました。

 

また、植生指数(NDVI、NGRDI)を利用した解析では、日射条件による影響が大きく、データの変動が生じやすいことがわかりました。特に、NDVIについては、収穫時の球重との相関が安定しておらず、今後の日射条件を補正する技術の開発が必要です。これに対して、水平投影面積は可視光カメラでも計測が可能であり、実用性の高い指標であることが確認されました。

 

結論

この研究では、ドローンと画像解析を活用してキャベツの生育状況を個別に把握する技術を確立しました。特に、水平投影面積がキャベツの成長指標として有効であり、定植後15日目の測定結果が収穫時の球重を予測するために適していることが示されました。高度30mでの空撮が、効率的かつ精度の高いキャベツ抽出に最適であると結論付けられました。

 

今後の課題としては、生育遅延株の促進技術や可変施肥技術の開発が挙げられます。また、NDVIやNGRDIのような植生指数に関しては、日射条件の影響を軽減するための補正方法の確立が必要です。この技術が実用化されることで、キャベツの生産性向上や作業効率の改善が期待されます。

 

出典元

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/41/3/41_375/_pdf/-char/ja

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