飛行高度を考慮した大型水禽類オオヒシクイの越冬地と渡りにおける陸上風力発電センシティビティマップ(文献紹介)

概要

この論文は、日本の日本海沿岸で渡りや越冬を行う大型水禽類オオヒシクイを対象に、風力発電による鳥衝突リスクを低減するためのセンシティビティマップを作成する手法を提案しています。風力発電施設の建設が進む地域は、オオヒシクイが飛来し、利用する地域と重なることが多く、その衝突リスクを可視化するマップを用いた対策が求められています。本論文では、オオヒシクイの集団飛来地と渡りルートにおけるセンシティビティマップを作成し、それを風力発電施設の立地検討に活用する手法について説明しています。

 

背景

近年、日本国内では再生可能エネルギーの導入が進んでおり、特に風力発電が注目されています。しかし、風車による鳥類への影響、特に渡り鳥や希少種への衝突リスクが問題視されています。鳥類が風車に衝突するだけでなく、風車を避けるための迂回行動が、エネルギーコストを増加させ、生息地の放棄や繁殖成功率の低下を引き起こす可能性があります。欧米では、センシティビティマップを用いた事前回避手法が進んでおり、日本でも同様の対策が必要とされています。

 

目的

本研究の目的は、風力発電施設による鳥衝突リスクを軽減しながら、再生可能エネルギーの導入を推進するため、オオヒシクイを対象にしたセンシティビティマップを作成することです。特に、集団飛来地と渡りルートにおける飛行高度を考慮し、風力発電施設の立地計画に活用可能なマップを提供することを目指しています。

 

手法

本研究では、オオヒシクイの飛行データや生息適地モデルを用いて、集団飛来地と渡りルートのセンシティビティマップを作成しました。以下の2つのマップを作成しています:

 

集団飛来地マップ

国内の主要な集団飛来地において、風車の回転域にオオヒシクイが飛行する確率を反映したマップ。

 

渡りルートマップ

渡りルートにおける飛行高度の規定要因を考慮し、オオヒシクイが風車回転域を飛行するリスクを評価したマップ。

これらのマップ作成にあたっては、GPSトラッキングデータや環境省の生態系モニタリングデータを活用し、飛行高度や環境要因(例: 森林、農地、水域の面積、標高)を組み込んだモデルを使用しています。

 

結果

作成されたセンシティビティマップは、オオヒシクイの集団飛来地や渡りルートにおける風車衝突リスクを可視化しました。特に、風車の回転域である高度30m以上130m未満(Lゾーン、Mゾーン)での飛行率が高いことが確認され、これにより風車衝突リスクが高まることが示されました。山地帯では、飛行高度が高くなる傾向がありましたが、山越え前後で飛行高度が異なる特性が見られました。

 

考察

本研究の結果から、風力発電施設の立地検討において、集団飛来地や渡りルートのセンシティビティマップを活用することで、鳥衝突リスクを効果的に低減できることが示されました。また、風車建設に伴う生息地の放棄や障害を防ぐためには、飛行高度やルートをより詳細に把握することが重要であるとされています。特に、センシティビティマップは、事前に風車衝突リスクを予測し、立地選定の早い段階で適切な対策を講じるための有力なツールとなります。

 

 

結論

本研究では、オオヒシクイを対象にしたセンシティビティマップの作成手法を提案し、風力発電施設の立地検討に活用することで、鳥衝突リスクを低減できることを示しました。今後、これらのマップをさらに精緻化し、風力発電事業者や自治体が計画段階で活用することで、鳥類への影響を最小限に抑えつつ、再生可能エネルギーの導入を推進することが期待されます

 

出典元

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/28/2/28_1922/_pdf/-char/ja

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