環境DNAの由来
環境DNAがどのような組織に由来しているかは未だによく分かっていないとされています。
魚類や両生類と行った生物の環境DNAは、その多くが生物体そのものではなく、個体から環境中に放出された何らかの細胞や組織片のDNAに由来すると考えられています(Barnes & Turner. 2016)。
しかし、それがどのような組織や器官に由来するかについては、いくつかの研究が示唆するのみ留まっています。
水の中で暮らす生き物の排泄物は、常に水中に放出されることを考えれば、環境DNAの由来に排泄物が大きく寄与していることは間違いないと考えられます。
他にも体表面から分泌される粘液、そして剥がれ落ちた鱗や表皮も環境DNAの由来として有力視されています。
魚類など体外受精を行う生き物の場合、特定の期間に限定されますが、配偶子も環境DNAの由来になりえます。
環境DNAは、必ずしも生きている個体のみに由来するわけではなく、死体からも同様に放出されます。
こうした死体に由来する環境DNAは、環境DNAに基づく生物分布や生物量の推定にとって大きな妨げとなる可能性があります。
環境DNAの生理学的・生態学的な由来の理解に加えて、環境DNAの放出に影響する要因についても、理解を深める必要があります。
これまでに様々な分類群で、環境DNA量が生物量や個体数、体サイズと正に相関することが報告されています。
環境DNAの状態
環境DNAは細胞内DNAと細胞外DNAの両方の状態で存在し、その分解の過程で細胞内DNAは細胞外DNAに継続的に変化するとされており、魚や両生類などのマクロ生物に由来する環境DNAについても同様であると考えられています。
また、排泄物中に含まれるDNA量とDNA断片長が反比例の関係にあります。
環境DNAの検出コピー数や検出リード数はDNA断片長に反比例すると考えられます。
環境DNAの移流拡散
個体から放出された環境DNAは、水の動きに従って移動します。
環境DNAの移流拡散に対する環境要因の影響は少しずつ調べられていますが、環境DNAの状態や構造によってもその移流拡散の程度は異なる可能性があります。
水中の環境環境DNAは多様な粒子径サイズおよび状態を有しており、より大きく重たい粒子ほど拡散しづらく沈みづらい、その表面積や密度によっても移流拡散の程度が変わることなどが考えられます。
環境DNAの多様な粒子径サイズや不均質な分布を考慮することで、環境DNAに基づく生物量の推定に役立つことが期待されます。
環境DNAの残存性
個体から放出された環境DNAは、やがて分解された検出されなくなります。
環境DNAの残存性に関わる要因として、水温、微生物の活性や量、pHや塩分濃度などがあると考えられます。
水以外に含まれる環境DNA
環境DNAは水中だけでなく、堆積物や土壌中にも存在し、水中の環境DNAとは異なる性質および動態を示します。
水中に放出された環境DNAの一部は底に沈み、表層の土壌や鉱物粒子などに吸着すると考えられます。
また、マクロ生物の環境DNAは大気中からも検出されることが分かっています。
フクロウなど鳥類の環境DNAを空気中から検出することに成功した研究例などもあります。
参考
環境DNA 生態系の真の姿を読み解く(一般財団法人 環境DNA学会)