T村に立地する水神と災害の関連性(らくだの大学院時代の研究内容)

背景

・近年、東日本大震災や西日本豪雨など深刻な災害が頻発

・そうした状況の中で、地域防災にかかわる共助の取り組みが各地で実施

・災害の記録や伝承を編纂し、後世に伝える仕組みづくりが重要

→何世代も前に起こった災害と関連する石碑、神社、水神などの地域遺産に着目

防災上の役割を調査し、今後の防災に有効活用することを目指した研究や取り組みが注目。本研究では水神に着目。

 

・河川の中・下流域にまつられた水神に関する報告例は多いが、河川上流域の水神の報告例は少ない。

・河川上流域の中山間地=「災害の最前線」

・水神:由来不明、文字情報としてのメッセージが皆無

水神 社

 

→地域住民と協力し、水神建立の経緯や関連する歴史を調査

→防災に役立つメッセージを新たに構築することが必要

 

目的と対象地域の概要

目的

T村とその隣接地域にまつられる水神を対象に、水神と災害との関連性を調査し、水神に持たせる防災上のメッセージの内容について考察する。

 

対象地域

T村は一級河川上流に位置する中山間地域

平成後半の豪雨の際に、山地部の土石流の発生、流木を伴う河川の氾濫

T村 概況図

 

研究の流れ

①水神の立地特性に関する現地調査

②水神に関するヒアリング調査

③T村の災害に関する歴史文献調査

④水神に持たせる防災上のメッセージの考察

 

①水神の立地特性に関する現地調査

現地調査

ハンディGPSで水神の位置の特定と周辺地形の把握

現地調査の様子

 

Arc-GIS

電子国土基本図を背景

水神の位置をプロット

土砂災害警戒区域・土砂災害危険個所を重ね合わせ

→水神の立地特性を把握

 

結果

全14か所で水神を確認

土石流を含む渓流の氾濫が発生しやすい箇所に水神が多く立地

水神の位置図

 

水神の立地特性

※水神の有無の-は過去水神が存在したが、消失したことを示す。

 

水神に関するヒアリング調査

・調査対象者:水神の管理人、T村の住人

・実施場所:公民館、調査対象者の自宅、水神がまつられている場所

・調査項目:水神の伝承、言い伝え、水神のイメージ等

・ヒアリングした人数は24名

 

結果

4か所の水神について情報を取得。(No.1、3、5、13)

No.3の水神について詳細を記載。

 

No.3の水神

・立地:O川沿い

・言い伝え、伝承:毎年4月にお祭りを実施。以前は近隣の神社で相撲が実施されていた。

O川の安全祈願や水に関することでまつっている

No.3の水神の位置図

 

No.3の水神の写真

 

まとめ

4か所の水神について、情報を入手

2か所が災害、1か所が農業、1か所が両方に関連してまつられる

→水神は災害と農業関連でまつられている

 

③A村の災害に関する歴史文献調査

No.3とNo.5の水神が災害に関連

災害の特徴を把握するために文献調査を実施

 

No.3の水神

明治時代以降に3度

O川の氾濫+「Kの大崩れ

谷筋上流の斜面崩壊と土石流が発生(明治に1回、昭和に2回)

→1度目のKの大崩れをきっかけに水神が建立

 

平成後半の豪雨でO川や土石流の氾濫で国道や農地が大きな被害

両側の山岳の谷筋からの大量の雨水・土石の流入、河川の氾濫

過去に何度も災害が発生

 

D山の勾配

K地区~D山の主な6つの谷筋の渓床勾配を分類

15°≦Θ(土石流発生の目安)の割合が86%

 

 

D山は土石流の発生しやすい地形的な特徴

→記録がない江戸時代以前からD山の土石流が繰り返し発生してきたと推定

 

D山の大蛇伝説

「D山(K)には大蛇が住み、大蛇の怒りで山が崩れた時、T谷(O川)は水の底に沈む」という言い伝え

→D山周辺でKの大崩れなどで発生した土石流が繰り返しO川を氾濫

 

まとめ

・ヒアリング調査「No.3の水神は、O川の安全祈願のためにまつられている」

・歴史的事実「Kの大崩れがO川の氾濫を引き起こしてきた」

・D山に残る「大蛇伝説

→No.3の水神はKの大崩れのみではなく、O川の氾濫を鎮めるために存在

 

④水神に持たせる防災上のメッセージの考察

・D山が災害を引き起こしやすい地形的な特徴

Kの大崩れなどで、土石流+O川の氾濫が繰り返し発生

・繰り返し発生してきた災害=「D山に棲む大蛇の怒り」となり、伝承

・明治時代以降の災害記録(Kの大崩れなど)をリアルに再現

→将来再び災害に見舞われる可能性を後世へ伝達

 

4つの内容から防災上のメッセージを構築

D山につながる災害の危険性を意識づける

その危険性を後世に伝える

役割を持つ。

→地域の防災モニュメントとして活用できる

 

結論

水神:文字情報としてのメッセージがない

→防災への活用を具体的に進めるには、地域の防災に役立つメッセージを新たに構築し、次の世代に伝えていく必要がある。

→水神の立地特性に関する現地調査

性格や建立経緯、言い伝え等の聞き取り

地域の古文書や古記録等の災害歴史資料

これらの情報を水神のメッセージに持たせる

→地域特有の災害に対する防災モニュメントとして水神を活用することが期待できる

 

具体的な取り組み

①市町村のHPへの公開や自然災害伝承碑への登録

→誰でも閲覧できるように電子情報化

 

②防災のメッセージを添えた看板を現地の水神近傍に建てる。流出した水神の再建

→防災モニュメントとしての役割を水神に与える

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

error: Content is protected !!