1 土地所有権と上空の範囲とは?
民法第207条には、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と定められています。
図1 土地所有権の範囲についての基本的考え方(出典:内閣官房)
しかし、上空のどこまでが土地所有者の権利として保護されるのかについては、以下のように解釈されています。
「利益の存する限度」とは?
土地所有者が実際に利用・管理している範囲に限定されるとされています。
例えば、建物の高さや樹木の高さなど、土地の通常の利用範囲内に限定され、それよりも高い空域は土地所有権の範囲外とされています。
図2 利益の存する限度のイメージ図(出典:武田, 2024より)
一律の高さの基準はない?
「◯メートル以上は自由に飛行できる」という一律の基準は法律上存在していません。
土地所有者が利益を主張できる範囲は、ケースバイケースで判断されるためです。
2 航空法と土地所有権の違い
航空法では、「人や建物から150メートル以上の高度で飛行する場合、安全基準を満たす必要がある」と定めています。
しかし、航空法の高度制限はあくまで安全面の規制であり、土地所有権の範囲を直接的に定めるものではありません。
航空法のポイント
- 高度150m以上の飛行は国土交通省の許可が必要
- 人口密集地(DID地区)での飛行は制限される
- 夜間飛行や目視外飛行なども許可が必要
→ 安全管理と土地所有権は別々の視点から規制されています。
3 第三者の土地上空を飛行する場合の注意点
同意が必要な場合
- 低空飛行(建物の近くや庭の上空など)
- プライバシーの侵害が懸念される場合(例:撮影目的での飛行)
同意が不要と解釈される場合
- 高度が十分高い飛行(地上から大きく離れている場合)
- 土地所有者の利益に直接影響を与えない場合
4 上空通過権とは?
一部では「上空通過権」として、土地所有者の許可なく上空を飛行できる権利の存在が議論されています。
しかし、日本の民法上では「上空通過権」という概念は存在しないと解釈されています。
土地所有権に基づく空間の利用は、「利益の存する限度」までに限定されるため、無制限に空域の権利を主張することはできません。
5 トラブルを防ぐための実践的な対策
ドローンの飛行計画を立てる際には、以下のような対策を講じることで、トラブルの回避が可能です。
5.1 事前のコミュニケーション
- 地域住民や土地所有者に事前説明を行う
- 目的、飛行ルート、飛行高度を説明する
5.2 飛行ログの記録と管理
- フライトログを記録し、飛行ルートの証拠を残す
- 飛行高度とルートを記録するアプリの活用(例:DJI Fly)
5.3 リスク低減策の徹底
- バッテリーの事前チェック
- 落下防止対策(フェイルセーフ機能の確認)
- 安全確認のための補助者配置
5.4 保険加入の検討
- 万が一の事故に備え、ドローン専用の損害賠償保険に加入
6 トラブル事例と解決策
事例1:低空飛行によるプライバシー侵害の訴え
→ 解決策: 事前に飛行目的と高度を説明し、同意を得る。必要であれば飛行ルートを変更。
事例2:飛行中のドローンが隣地の敷地内に墜落
→ 解決策: 賠償責任を認め、保険で対応。安全対策を見直し、再発防止策を説明。
7 まとめ
ドローンの第三者所有地上空飛行には、民法や航空法のルールが絡み合っています。
基本的なポイントをおさらいすると、
- 土地所有権は「利益の存する限度」まで
- 航空法の高度制限とは別に、土地所有権の制限が存在
- トラブル防止のためには、事前説明とリスク管理が重要
安全かつ法令遵守のもとで、ドローンの活用を進めましょう。
参考
内閣官房小型無人機等対策推進室:無人航空機の飛行と土地所有権の関係について(令和3年6月28日)
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai16/betten4.pdf)
武田智行:無人航空機の飛行と土地所有者の権利~第三者所有者の上空利用についての法的整理~(Technical Journal of Advanced Mobility, Vol. 5, No. 12 (2024))
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjam/5/12/5_123/_pdf/-char/ja)